一昨年2019年11月の学術雑誌サイエンスに、ネオニコチノイド系殺虫剤が農薬として登録された1992年以降に、宍道湖の動物プランクトンやユスリカが急減しワカサギとウナギの漁獲が減少したという論文が公表されました。同年12月18日の毎日新聞には同じ時期に宍道湖のトンボ類が激減したことも報道されました。
ミツバチなど昆虫類に影響するこの農薬は、欧米では一部しか認可されておりません。分解性が低いので、水田などから流出し宍道湖の水生昆虫類などを激減させ、これらを餌とする魚類に影響したことは十分に考えられます。エビ(昆虫類に近い甲殻類)やフナも同じ時期の頃から減少したと聞いていました。この農薬が使用されてから、宍道湖の生態系に大きな歪みが起きたように感じました。
このような問題に対し普通なら、関係する部局より現場を見つつ幅広い詳細な検討が始められます。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大もあり、今のところ動きを聞いておりません。私たちのNPOはこれまで宍道湖・中海において調査研究を続けてきました。この新たな宍道湖の生態系の問題について、より幅広く実態を把握し今後の問題解決に少しでもお役に立ちたいと独自の調査を始めました。

ネオニコチノイド系殺虫剤の影響を知るには、1993年の使用開始前後の状況の比較が必要です。幸い、宍道湖で生息するトンボ類の調査が1987~2000年に行われています。同様の調査を今年度20年ぶりに行い、現状の確認を行いました。また、宍道湖漁業協同組合に保管されている1979~2008年度の30期の定置網漁業記録を使用し、この期間の長期的なエビ類などの変動を検討しました。またエビ類について、近年の状況を知るため簡易現場調査を行いました。

結果は簡易な報告書にまとめ、関係の方々に配布しました。この事業はNPOの独自調査で始めましたが、その後、島根県「しまね社会貢献基金」の助成を頂きました。重要な課題なので、令和3年度もトンボ類の現場調査とエビ類のデータ解析を行う予定です。

1.事業申請の内容
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2. 報告書など
・自然と人間環境研究機構(2021)宍道湖のトンボ類とエビ類の30年余にわたる長期的な変動の調査-令和2年度島根県「寄付者設定テーマ事業」報告書, pp12.
・しまね社会貢献基金→令和2年度寄付者設定テーマ事業→令和2年度事業実施団体事業報告→寄付者設定テーマ事業の4(まとめが掲載されていますのでご覧ください)